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パワースポットブームも相まって神社仏閣に参拝する方が増えている昨今ですが、神社や寺院にはご利益をお願いするだけでなくその他にも見どころは沢山あります。

特に寺院に参拝されたときに、”庭園“に注目されたことはないでしょうか?

日本庭園は時代ありとあらゆるものに神が宿ると考えた日本人の宗教観が色濃く反映されており、時代の移り変わりによって様々な様式が生まれました。日本庭園は奥が深いですが、ここでは基本的な三大様式と、日本庭園では何が主役となっているのかをご紹介したいと思います。

1.日本庭園と西洋庭園の違い

冒頭にもお伝えしましたが、日本人はありとあらゆるものに神が宿るとする考え方を持ちます。日本庭園の中で使われている自然の要素にもこの宗教観が活きています。

中でも、日本人の仏教思想は日本庭園に色濃く反映されており、西洋の庭園とは大きく違います。西洋では自然を人工化し直線的で幾何学的なデザインを庭園の形としています。ベルサイユ宮殿の庭が有名な例ですね。

また、日本の庭園は寺院で作られるものが殆どでしたが、西洋では城や貴族の館に付随したものが殆どで、キリスト教の教会には庭がないのも特徴です。

日本庭園は中国や朝鮮など大陸からの文化や思想に影響されながら独自に発展していきました。日本庭園として私達が見る今の姿は、都が奈良の平城京から京都の平安京へと移った8世紀末以降に急速に増え始めます。

2.日本庭園の三大様式とは

日本庭園には、大きな池、石組み、樹々、起伏のついた山に見立てたイメージがあると思います。特に平安時代前期に現れた寝殿造り(しんでんづくり)という様式では、公家や天皇が広大な敷地に海の風景を表現しており、中でも池は海そのものを表現する庭園の中心的パーツとして書かせませんでした。

平安時代の特徴としては、憧れの自然を身近に造形したいという写実的な表現方法の「池庭」が特徴です。

時代は移って、室町時代になると禅宗寺院で水を使わない「枯山水」の庭園が生まれます。

こちらは日本史の教科書にも出てくるのでよく聞く名称ですよね。そして、ほぼ同時期に生まれたのが茶室へと続く簡素な庭園である「露地」。

現代の日本庭園の三大様式はこうして誕生しました。

※ 京都市右京区嵯峨にある大覚寺には、平安時代前期に嵯峨天皇の苑地として作られた庭園の遺構とされる広さ3万平方メートルもある大沢池があり、安時代前期の様式を伝える貴重なものとして遺っています。

大覚寺庭園

池庭
「池庭」とは、海に見立てた“池”を中心に自然の景観を取り込んだ様式です。池が日本庭園において重要なパーツであったことから、平安時代の天皇や公家、江戸時代の大名が作らせた庭にもこの池庭スタイルは多く見られます。宇治の平等院に代表される浄土庭園も「池庭」のひとつ。

この池の周りの園路を回遊しながら庭園の景色の変化を感じる「池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)」というスタイルがあり、京都の金閣寺や宇治の平等院などが有名です。

 このほかにも、園路を歩いてではなく舟で回遊する「舟遊式(しゅうゆうしき)」、庭園の外にある景色を庭の重要な構成の一つとしておいた「借景式(しゃっけいしき)」などのスタイルがあります。


平等院鳳凰堂

枯山水

室町時代になると平安時代までの池庭から「枯山水」の庭園へと変わっていきます。こちらは池庭で使われていたような自然の要素は限られたものしか使われず、都市の限られた空間で大自然を表現しようと考えられた様式でまったく異なっています。

枯山水とは、水を使わずに白砂を水に見立て、石組みを主体として自然の景観を表現する様式です。この枯山水での主役は“石”。室町時代の宗寺院で生まれた枯山水は、静けさに包まれた空間が訪れる人の心を落ち着かせてくれます。

また海外にも枯山水のファンが多いことが特徴です。

日本庭園としてはこの枯山水スタイルが一番有名ではないでしょうか?水に見立てた白砂は人の手によって波紋が描かれ、まるで現代アートのようでもあります。京都では龍安寺や東福寺、建仁寺など枯山水で有名な寺院が数多く現存しています。

 

露地

「露地」は枯山水と同じく室町時代に生まれた様式で、寺院などの庭園として作られたものではなく、茶室に付属して設けられた茶庭の庭のことをいいます。

茶室へと続く通路を渡りながら、より身近に自然を感じて雑念を取り払えるようなあつらえとなっています。華美な装飾ではなく、日本文化の侘び寂びの精神につながるものです。

この露地という様式は茶の湯の発展に伴って生まれてきたもので、茶の湯の精神である「市中の山居」という、都に居ながらにして静寂の境地を味わう哲学に繋がっています。

都の中の小さな限られた空間(茶室)においても無限に広がる自然の力を感じさせることが大切で、これを具体化すべく露地には飛石やつくばい、石灯籠などが置かれています。

 

大徳寺塔頭高桐院の蹲踞

 

3.日本庭園における四大要素

それでは、日本庭園のどの様式においても共通する要素は何でしょうか?庭園の中で自然を表現しようとした日本庭園には、4つの重要な要素があります。

・まず1つめは「水」。水はすべての生命において命の源となる最も重要な要素であり、それぞれの様式で使われ方は様々です、池庭では大沢池に代表されるような広大な苑地であったり、枯山水では実際に水を流さずに白砂で水の波紋や流れを表現しています。露地では茶の湯のためにその場を浄める「水打ち」や口を清めるための「つくばい」ン使われています。

・2つめは「石」。日本では古代より石には神が宿るとの信仰がありました。仏教思想にもそれに似たものがあり、日本庭園に配された石はいくつかの組み合わせで阿弥陀三尊を表していたり、縁起の良い鶴亀を表していたりとその庭園の中でも重要な役割を持ちます。

・3つめは「植栽(しょくさい)」。これは庭園に植えられる植物のことで、ほとんどの庭で松が植栽の主役となることが多いです。遠くの山などを利用する借景という方法では、植栽の松などが遠くの景色に調和しどこまでも続く広大な空間を演出するような造りになっています。

・4つめは「景物(けいぶつ)」。池に掛けられた橋や石灯篭、つくばい、敷石、飛石、竹垣などの庭園に使われているインテリアを指します。東福寺の方丈庭園は景物である敷石を斬新に使用していることで有名です。

東福寺 方丈庭園

まとめ

ここまで簡単に日本庭園における基本的な考え方と、代表的な日本庭園の様式および使われている要素についてご紹介してきました。こうしてみると、日本庭園は趣があり、成り立ちにも哲学があり素晴らしいものだとよく分かります。

次に寺院を訪れる時には、本堂の仏様にお祈りをするだけでなく、寺院の庭園にも注目してみるのはいかがでしょうか?

きっと新しい発見があるはずです!