寺社仏閣、特に寺院を参拝した時の楽しみの一つに日本庭園
があります。日本庭園は古来からの日本文化を反映させた
もので、庭園を見ることで日本人が何を大切にしてきたのか
分かるほど。心が安らぎ落ち着くという意味では、日本庭園
も一つのワースポットブームだと言えるのではないでしょう
か?特に多くの有名な寺院では、素晴らしい庭園が見られる
多いですよね。実はこれらの庭園も、時代の移り変わりに
よって随分と変化しています。そこで、前回は典型的な日本
庭園の様式をご紹介しましたので、今回は日本庭園が時代の
移り変わりとともにどのように変化していったのかをお話し
したいと思います。
日本庭園には欠かせないもの
日本庭園で表現される代表的なものに、”水“があることは
ご紹介しました。この”水の流れ“を表現する方法として、
海を模した池や滝に見立てた水の流れ、園内の池などに
注ぐ曲線の水路を作ります。これを遣水(やりみず)と
いいます。また、龍門瀑(りゅもんばく)という手法もあり
ます。これは石や岩を組んで滝、島や山を表します。枯山水
という手法では、水は使わずに石、砂などで水が流れるさま
を表します。このように日本庭園には水を扱うことが多く、
風景は曲線的で、非左右対称というのが主な特徴です。
平安時代
日本庭園は時代によって変化してきました。特に平安時代は
貴族文化が栄え、寝殿造りの庭が多くありました。曲水の宴
などの連歌の会が催されていた時代です。寝殿造りの寝殿は
貴族の館を意味し、貴族は自分たちの住居に庭園を造らせる
ようになります。広大な池泉には中島(島)があり、橋が架
けられ、川を模した遣水(やりみず、池泉に注ぐ曲線の水
路)もありました。
平安時代も中期にさしかかると浄土信仰が盛んとなり、寝殿
造庭園は極楽浄土を表現した浄土式庭園へと変化を遂げまし
た。広大な池泉に中島と平橋・反橋が架かり、これを渡りき
ると極楽浄土(阿弥陀堂)にたどりつくようになっていま
す。寺と一緒に作られる浄土式庭園が主流になります。
http://tokubooan.jp/wp-content/uploads/2015/08/byodo-in-165059_6401.jpg
鎌倉~室町時代
鎌倉時代に入ると貴族の邸宅から武家住宅様式の書院造が
主流となりました。この時代の庭園は、庭園を歩くので
はなく建物の中から眺めるものへと変化していきます。
これまでの広大な庭園を造れるスペースはなくなり、
白砂を利用した枯山水庭園が主流となりました。枯山水では
水は使わすに、流れるような白砂を水に見立てて自然を表現
しています。この様式は、鎌倉時代に本格的に伝わってきた
禅宗と結びついて、室町時代にかけて一気に発展して
いきました。
http://tokubooan.jp/wp-content/uploads/2015/08/a0960_005960.jpg
安土桃山時代
桃山時代は茶の湯が大変発達しました。千利休をはじめ、
彼の台頭に戦国武将が迎合して茶の湯文化は大いに栄えまし
た。それに伴って茶室や露地(庭園様式)が生まれました。
これまでの華美な装飾はなくなり、枯山水とも異なる侘び寂
びの文化が主流となりました。
これまでの日本庭園は自然を凝縮したものでしたが、身近な
山の中に入り込んでしまったような風情を作り、意匠も控え
めになりました。石燈籠を据えたのも千利休が最初と言われ
ています。
その一方で、豊臣秀吉、徳川家康らが絢爛豪華な池泉庭園を
築いたのも桃山時代の特徴です。長寿を願い、蓬莱島や鶴を
模した鶴島、亀を模した亀島の石組が流行しました。
戦国時代の武将たちは露地とは異なる豪勢な城郭庭園を
作り、その権力を示そうとしたのです。二条城の二の丸庭園
などが有名です。
http://tokubooan.jp/wp-content/uploads/2015/08/195311791_6241.jpg
江戸時代
時代は移り、江戸時代になると再び大池泉(大きな池)を
中心とした様式が各地に造園されました。しかし、古代の
それとは全く異なり、各地の名勝を写した縮景式庭園や
中国趣味を取り入れたもの、海水を引き込んだ潮入り庭園と
実に多彩です。石燈籠、中島に掛かる橋、庭園の隅には茶室
に露地…大名庭園は今までの日本庭園の集大成とも言える
ものになりました。また、離宮(皇居以外に設けられた
宮殿)の庭園も優れ、江戸中期に造園された桂離宮は日本庭
園の最高傑作として名高いです。東京の浜離宮恩賜公園や小
石川後楽園などの有名な庭園が全国にあります。
http://tokubooan.jp/wp-content/uploads/2015/08/31851989_6241.jpg
明治・大正時代
明治時代になると、財閥や実業家が台頭し自宅や別荘に日本
庭園を作ります。外の景色を庭園の一部と見立てた借景式庭
園も登場し、いままでの日本庭園に西洋風のデザインを混在
させたモダンな造りの庭園が生まれました。庭園のライト
アップはこの頃から始まりました。東京の旧古川庭園などが
有名な例です。
http://tokubooan.jp/wp-content/uploads/2015/08/Kyu-furukawa-western-style_building-20111.jpg
まとめ
こうして見てみると、日本庭園の進化の様子やその移り変わ
りがよく分かります。いつの時代においても、建築物はその
時代の権力者の価値観や宗教観と色濃く結びついていること
は周知の事実です。庭園も含め、建築物は何時の時代も必ず
何らかのキーワードが隠されているように思います。また、
歴史的な視点から見てみると、また日本庭園も違った見方が
できるのではないでしょうか?
次回、みなさんが寺院を訪れる時、そして庭園をご覧になる
時にの発見の一助になればと思います。